ヘッドホンアンプの効果


はじめに

 M-01の様な外付けアナログアンプはDAPのアナログ出力端子に接続します。

この様な外付けアナログアンプに対し、普通は以下の様に考えられているかと思います。

  1. 余計なデバイスが追加される事で音質が劣化する。
  2. 外付けアンプは、純粋な据置きプレーヤーとの接続が前提の製品。
  3. 外付けアンプにハイエンドDACが内蔵されているなら、DAPとデジタル接続すれば音質は良くなると思う。

 悪くなる要素は思い付くが良くなる要素が見当たらないため、外付けアナログアンプをDAPのアナログ出力に接続しても音質が良くなる可能性は極めて低く、購入はリスキーだという結論に至ります。しかし外付けアナログアンプのユーザーは存在するので、実際どうなのか気になっている方もいると思います。

 

 以下にM-01を題材として検証した結果を説明します。音質評価は個人差が大きいため程度が定量化出来ず、結果的に曖昧な表現になっている事を予めお断りしておきます。

 

 ページが非常に長いため、結論のみ知りたい方は一番下の ヘッドホンアンプ効果まとめ までスクロールしてください。

 



基礎情報 信号の流れ

 図はアンプの回路図です。アンプは小さな信号を大きな信号に増幅すると言われているので、小さな信号に電力を足して大きな信号に育てるイメージを持つ方が多いと思います。しかし実はそうではありません。

 

 赤の矢印はアンプの入力信号、青の矢印はトランジスタが入力信号を受け生じた電流を示します。入力信号はトランジスタに信号を伝えた時点で役目が終わる為捨ててしまいます。

 青の矢印の電流が上流にある抵抗を通過する事で発生する電圧が次段のトランジスタの入力信号になりますので、信号を大きく育てるのでは無く、倍率を変えて転写する事になります。

 以後トランジスタ毎に転写を繰り返し、ヘッドホン等の負荷に適した電圧 / 電流になる様に調整して行きます。この原理は真空管やICの中身も同じです。

 

 従ってアンプ増設等の理由により信号転写の回数が増えると、劣化の機会も増えます。



転写で音質は劣化するのか

 前の説明では信号転写する回数が増えると劣化の機会も増えると書きましたが、実際どうなのか考えてみます。

 増える事でまず最初に思い付く例はセパレートアンプです。ほとんどのアンプは、入力段 / 電圧増幅段 / 電流増幅段の3部構成で、プリアンプもパワーアンプも基本は変わりません。

上位モデルのアンプになるとボリューム部にインピーダンス補正用のバッファーアンプを装備している事が多く、更に信号を転写する回数が増えます。

※実はプリメインアンプも基板レベルで見るとセパレートアンプと同じ構成になっています。従ってセパレートアンプを例にするのは適切でないのですが DAPよりは転写回数が多い事は確かです。

 

 もし信号転写の回数が音質に大きく影響するなら、回路設計の次元からオーディオシステム全体の構成まで今とは違う方向に進化していた筈です。

 従って現状の回路設計、オーディオシステムの構成を鑑みると、信号転写の回数は音質劣化に対し直接的な原因になっていないと言えます。

※アンプ内蔵DAP + 外付けアンプの様に、同じ目的の装置が2段掛けになってしまい気持ち悪い感は否定しません。 

 

 下図は、iPod単体とiPodにM-01 Originalを接続した時の特性図です。通常の測定は負荷に抵抗器を使用しますが、今回は差が出る事を期待してHD650を負荷代わりに使用しています。※周波数特性は耳栓をして頭に装着し測定、差が無かった為THD+N以降は頭に装着せず測定(HD650は開放型)。

 

<周波数特性>

 iPod単体とiPod+M-01の特性は同じでした。

 

<THD+N 歪率>

 0.03~2mW位までM-01を追加しても同等の値で推移します。小音量領域のTHD+Nは残留ノイズの影響でM-01を追加すると悪化します。

 

<残留ノイズ>

 iPod単体:1μVrms、iPod+M-01:1.7μVrms。

※聴感補正Aフィルターを通しVP-7723A、12V電源で測定した値。

 

 音質劣化する / しないについては特性の比較で判断出来ませんが、M-01を追加した事により音質に関わる電気的な重大な劣化が生じる事は無いと言えます。



実際音は変化するか?

 音質に関わる電気的な重大な劣化は無い事が分かったので、実際に音が変わるか確認します。

 最初にお断りしておかなければならないのですが、音質の比較で違いを感じた箇所は嘘偽り無く記載していますが、程度については必ず個人差が生じます。

 結果は参考程度に留め、極力ご自身で試聴し確認される事をお勧めします。▶M-01 デモ機貸出予約

 

使用機器

アンプ:M-01 Original Gain:Normal

DAP:WALKMAN NW-A106(以下WM)
ヘッドホン:ゼンハイザーHD650

電源:オーディオデザインDCA-12V

WMイコライザー設定:ソースダイレクトオン

音源:AWA(サブスク配信)よりランダムに選択

 

音質比較結果(試聴)

<条件>

音量はそれぞれストレス無く聴ける上限に調整し比較しました。

以下は WM単体 → WM+M-01 → WM単体イコライザー調整 を順に試聴し、違いを感じた項目を記載しています。

 

<結果サマリー>

WM単体とWM+M-01の比較

WM単体(Vol.位置96)→ WM+M-01(Vol.位置78)

  • 音場が拡がった。
  • 音が刺激的で無くなり、音量を上げてもうるさくない。
  • 再生周波数レンジが拡大した様に聴こえる。
  • 低音の量感、解像度がWM単体より増した。
  • ボーカルに低 / 高音が付帯しリアリティー向上した。
  • 楽器の音はそれぞれ分離する様になり、音色も明瞭に聴こえる。
  • 音を聴きに行く感じから、ホールで聴く様に音が耳に入って来る感じに変化。

WM単体でWM+M-01の音質傾向に調整

WM+M-01(Vol.位置78)→ WM単体イコライザー調整(Vol.位置99)

  • 音場の広さは同等になった。
  • 音の刺激的な部分は変わらないため、あまり音量を上げたくない。
  • 再生周波数レンジ感は同等になった。
  • 低音の量感、解像度は同等になった。
  • ボーカルに低音が付帯しない。
  • 楽器の音の分離感、音色の明瞭さはイコライザー調整前と変わらない。
  • 音量を上げたのに音を聴きに行く感じは変わらない。
  • 気持ち良く聴ける音量がピンポイント。曲よって頻繁な音量調整が必要。

(結論)M-01を追加し良くなったポイント

  • 音が刺激的でないため、音量を上げられる。
  • ボーカルに低音が付帯しリアリティーが向上する。
  • 楽器の音はそれぞれ分離する様になり、音色も明瞭になる。
  • ホールで聴く様に、音が耳に勝手に入って来る鳴り方がする。
  • 気持ち良く聴けるVol.のレンジが広い。

 M-01を追加する事で、良い方向に音質が変化しました。次はどの様な状態で試聴していたか把握するため測定します。

 

試聴時の特性把握

<基準レベル>

 信号:1kHz 0dB 正弦波(WMで再生)

  • WM単体:232.52mVrms
  • WM+M-01:295.36mVrms
  • WM単体イコライザー調整:278.57mVrms
    ※イコライザー調整は 1kHzを基準(0dB)に±1dB

<イコライザー設定値>

 

<周波数特性の比較>

WM単体とWM+M-01は完全に一致、イコライザーは設定値通りの特性でした。

 

<信号レベルの比較>

最初に試聴したWM単体とWM+M-01は2dB程出力レベルに差がありました。

WM単体イコライザー調整は、中音のレベルをWM単体ソースダイレクトオンと同等、低高音をWM+M-01と同等に調整しました。

 

<楽曲再生時の信号レベル>

 下の波形は、音量合わせ時に目安にした実際の曲の波形です(音量の大きい箇所約5秒)。WM単体、WM+M-01、WM単体イコライザー調整、それぞれ曲の同じ場所の波形をオシロスコープに取り込み実効電圧を測定しています。

 

WM単体:102mV = 0.032mW

 

WM+M01:129mV = 0.050mW

 

WM単体イコライザー調整:123mV = 0.046mW


<音量>

 音量を測定する設備が無いため、HD650の元箱に記載してある感度をベースに試聴時の音量を算出しました。

 算出結果、今回試聴時の音量は83~85dBでした。



なぜ音質に違いを感じたか

 アンプを変えると音質が変わる事はオーディオ界で常識ですが(数値で示せと言われても出来ませんが)、試聴した時に何故音質が違って聴こえたのか深掘りしてみます。

 考えられる要素は以下になります。

  1. 負荷の影響で再生音質が劣化する。
    WMにヘッドホン直挿し時の負荷は約330Ω(HD650実測)、WMにM-01を接続時の負荷は約90kΩで、しかもWMの音量も下げられるため、圧倒的に負荷が軽い。
    iPodで特性に差が無い事は確認済みですが、音質は変わっているかも知れません。
  2. 試聴時の音量が僅かに違う。
    音量が大きい方が良い音に聞こえるので音量を厳密に合わせるとどうなるか確認してみます。

<負荷の音質影響確認結果>

 確認方法:

WMのイヤホンジャックに2分岐アダプターを接続し、片方をM-01に接続、もう片方に負荷を接続し、負荷有無で音質に差が有るか確認する。負荷はヘッドホン K702(62Ω)を使用。

 確認結果:

音質差は判別不能でした。

音量も若干下がる筈ですが、分かりませんでした。

 

<音量調整結果>

 確認方法:

WM単体 Vol.96 vs WM+M-01 Vol.74

双方ソースダイレクト:オン
※音質比較時は WM+M-01 Vol.78

 確認結果:

 音質比較時に WM+M-01で良くなったと感じた以下の部分はそのまま残りました。

  • ボーカルに低音が付帯しリアリティーが向上する。
  • 楽器の音の分離感向上、音色も明瞭になる。
  • ホールで聴く様に、音が耳に勝手に入って来る鳴り方がする。

音量を厳密に合わせると、帯域バランスはWM単体とWM+M-01は同じ様に聴こえました。

 

<結論>

 申し訳けございませんが、なぜ音質差が生じるかの原因は分かりませんでした。波形の細かな違い等は探せば出て来ると思いますが、きっとそうで無いと思います。今後の課題として継続検討します。

 M-01は、音質最優先で回路と部品選定を試聴を繰り返しながら開発した事は確かですので、それだけは言えます。


ヘッドホンアンプの効果まとめ

 個人差が大きいため程度は言えませんが、少なからず以下の変化を感じると思います。

  • 音が刺激的でないため、音量を上げられる。
  • ボーカルに低音が付帯しリアリティーが向上する。
  • 楽器の音の分離感向上、音色も明瞭になる。
  • ホールで聴く様に、音が耳に勝手に入って来る鳴り方がする。
  • 気持ち良く聴けるVol.のレンジが広い。

 DAPの音質はハイレベルだと感じますので、何がなんでもアンプ増設必須という事は無いと考えます。

 まずは好みに合ったヘッドホン・イヤホンの吟味、アクセサリー類での音質調整等を体験し、どうしても一線を越えられない場合に外付けアンプを試していただけたら良いと考えます。

 とはいえ、アクセサリーも極めるとかなり高価なものになりますので、導入タイミングを知っておくために、一度デモ機を体験なれれる事をお勧めします。▶M-01 デモ機貸出予約

 

 以上、今回はっきりしなかった音質差の原因は、今後の課題として継続検討して行きます。 


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